のび太です。
『まんぷく』第32回の感想です。
軍が残していった鉄板を使って塩を作ろうと思い立った萬平は、神部を連れて兵庫県の赤穂へ塩づくりを勉強しに行きました。泉大津に残った福子と武士の娘はご近所さんに引っ越しの挨拶がてら、着物と食べ物を交換してもらえないかと頼んで周っています。もちろん鈴は嫌々です。その一環で福子の友達のハナの家にもやってきました。
ハナの旦那さんは地主です。福子たちが提示した着物を300円で買ってくれました。唐織の帯とのことですが、結城の着物を世良が300円で買っていたので、この帯を300円で買ってくれるのはかなり良心的というか、これはもう適正価格ではなく友達への応援価格だと思われます。
家に戻ってからも武士の娘が福子にちくちく言います。ハナの旦那さんは地主なのにあなたの旦那は何をしているのかとか、塩を作ってその先の見通しはどうなってるのかとか。福子は信じて待つのみと答えます。この点については鈴の言い分ももっともです。塩を作るのであれば日にどのくらい生産してどこにいくらで売る、といういわば事業計画のようなものがあって然るべきです。でも福子は何も聞かされていない様子。おそらく聞かされていないだけでなく、そんなものはこの時点で存在していないのだと思われます。萬平の頭の中には具体的な数字はまだない。ただ、よその家の収入と比べて萬平をけなすのはいきすぎだと思います。
赤穂に到着した萬平と神部が見学したのは入浜式塩田という手法でした。入浜式の手順は次の通りです。
- 海辺に堤を築き、海水を流し込む
- 日光と風で水分を蒸発させ、砂に塩分を付着させる。
- 砂をかき集める。
- 海水を砂と塩分を分離させて鹹水(「かんすい」:塩分濃度の濃い海水)を作る。
- 鹹水を煮詰めて水分を蒸発させ、塩の結晶を作る(煎熬「せんごう」)。
萬平のメガネ曇ってます。
赤穂から萬平と神部が帰ってきましたが、萬平はご飯も食べずに倉庫へ。神部の話ではお昼も食べていないようです。没頭すると食べることより研究開発を優先してしまう萬平。理系のタイプとしてそれはよく分かりますが、食べることが何より大事だとか、人一倍食べることに執着があるとも言ってましたよね。矛盾。
萬平が倉庫へ行ってしまったので、福子と鈴はご飯お預けです。でも鈴は我慢できずに先に食べようと言います。自分のことを家長と思っているなら当然ですが、強行しないあたり、家長と自認しているわけでもないようです。でもここで謎の一言。
「親をないがしろにしてるわ。旦那の肩ばかり持って。」
なんで母親が娘の旦那と張り合うんでしょう。なんで娘の気を引きたがるんでしょう。鈴の心には満たされない空虚感があるのでしょうか。
翌朝、萬平と神部は鉄板を海岸に並べました。鉄板の両端に木の堤をつけ、海水をゆっくり流します。鉄板の上を流れる海水を再びバケツで受け、また流す。これを繰り返しているうちにバケツに貯まる水のしょっぱさが増していきます。こうやって鹹水を作るんですね。
場面変わってまたハナの家です。今日はまた別の着物を持参しています。福子曰くうちで一番の着物だそうですが、なんと、500円で買ってもらえました。ハナの旦那さんがとってもいい人ということはよく分かりましたが、これこそたかっているようでなんか気持ちが萎えます。四の五の言ってられないという状況を表しているのだと思いますが。
武士の娘ガックリ。
福子たちが帰宅すると萬平と神部が煎熬に取り掛かっていました。煎熬で塩の花を作り、それをろ過して水分を分離させ、塩の完成です。喜びを爆発させる一同の中で、鈴だけは塩が茶色いとぼやいていました。
ここで一つ疑問に思ったことがあります。最初から海水を直接煮込んではダメなのでしょうか。鉄板の上を通過させて鹹水を作る工程を飛ばして、初めから煮込んでいれば水分が蒸発して塩の花ができるのではないでしょうか。
調べてみたところ、それではダメなようです。どういうことかと言うと、
- 海水には塩分以外に不純物が混じっているので除去する必要があるが、海水を煮込むだけでは不純物も結晶化して塩と混ざってしまう。
- 海水を窯で蒸発させる方法では、鉄板よりも時間とコストがかかる。
特に問題なのは1のようです。初めから煮込んで結晶を取り出しても、それは塩の花ではなく塩とその他不純物の汚れた花になってしまう。それに対して鉄板を何度も通すことには次のような意味があるようです。
- 鉄板に何度も流すことで海水を蒸発させると同時に、不純物を鉄板に付着させて塩と分離させる。
- 鉄板と日光で蒸発させるため低コスト。
なぜ鉄板の上を何度も流すと不純物が取り除かれていくのか。それは海水に含まれる物質には結晶化する順番があるためです。
海水には塩(塩化ナトリウム)の他に硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムというような物質が多く含まれているそうです。鉄板で水分を蒸発さて海水の濃度が高くなると、水分の中に入りきらなくなった物質が結晶として外へ出ていきます。最初に出てくるのは酸化鉄や炭酸カルシウムで、次に石膏、そして水の量が10分の1になったくらいに塩化ナトリウムが結晶化し始めます。そしてさらに水分を飛ばしていくと硫酸マグネシウムなども結晶化します。
塩を鉄板に付着させてしまっては元も子もないため、鉄板で作る鹹水は塩が結晶化し始めるギリギリを狙うのが理想的です。この状態になれば酸化鉄や炭酸カルシウム、石膏といった物質は鉄板に付着して海水の中には残っていないことになります。
そしてここからは煎熬の工程ですね。塩分の濃度が濃くなった鹹水を窯で煮込みます。水分が蒸発するといよいよ塩化ナトリウムが結晶化して出てきます。これが塩の花ですね。しかし注意しなければならないのは、それ以上煮込むと他の物質も結晶化して塩化ナトリウムに混ざってしまうという点です。よって水分を完全には飛ばさないんですね。水分と塩が分離したところで煮込むのをやめ、最後は水分(にがり)をろ過することによって、水分中にまだ含まれているマグネシウムなどの物質を水分と一緒に流して塩化ナトリウムと分離させるのです。
こうしてみると、海水を初めから煮込んでしまうと塩だけを取り出すことができないということが分かります。鹹水(次はいよいよ塩が結晶化するという状態の海水)を作ることが非常に重要なんですね。普通塩づくりは塩田を整備しないといけないのに、鉄板だけで代用したところが萬平のすごいところだと思います。ただこの方法で真っ白な塩を作るには、水が蒸発するほど熱くなっている鉄板を、海水を流すたびにきれいに拭いて他の物質の結晶や鉄を落とさなければなりません。炎天下で作業するとなるとかなりしんどい仕事になりそうです。